相続した土地を売却したら、その翌年に「確定申告」をおこなう必要があります。不動産の売買によって売却益が発生した場合は「譲渡所得税」を納めなければならないためです。
一方、損失が発生した場合は税法上の申告義務はありません。しかし、確定申告をおこなうことにより、減税措置・還付金を受け取れる可能性があるのです。
そのため、不動産売買をおこなった翌年は、売却益の有無にかかわらず確定申告をおこなうことが推奨されています。スムーズに申告をおこなうためにも、土地の売却に関する確定申告に必要な書類を把握しておきましょう。
相続した土地を売却した人全員に共通する「確定申告時の必須書類」の一覧は以下の通りです。
上記8種類の書類は、土地売買に関する確定申告において最低限揃えなければならない書類です。記入や取得に時間がかかるものもあるため、期限までにしっかり準備できるよう把握しておいてください。
また、確定申告の際に正しく申請をおこなえば、税金の控除・減税措置などの特例が適用できるケースもあります。特例を利用する際には以下の書類が追加で必要になりますので、あわせて覚えておきましょう。
相続した土地を売却した人が適用できる特例の種類については後述します。特例ごとに必要書類が異なるため、自分のケースに該当するかどうか確認した上で書類を準備しましょう。
相続した土地を売却した際の確定申告で、必ず用意しなければならない書類は以下の通りです。取得場所・タイミングについても掲載しておきますので参考にしてください。
上記書類のうち、不動産購入時・取得時の書類に関しては、万が一用意できなかったとしても、確定申告自体をおこなうことは可能です。ただし、支払う税金が増えてしまう可能性が高くなります。
そのため、上記書類が1つでも不足すると正しく確定申告ができないことは覚えておいてください。書類の準備と記入は余裕を持っておこなうことをおすすめします。
確定申告の申告用紙はAとBの2種類です。土地売却に関する所得を申告する際は、原則Bの申告書にておこないます。AとBの違いについては以下を参考にしてください。
「確定申告書A」は、一般企業に勤務する会社員やアルバイト、年金受給者が利用する書類です。医療費控除や雑所得の申請をする際に必要になる申告書で、記入項目が少なく簡素化されているという特徴があります。
一方、「確定申告書B」は記入項目が多い複雑な書類です。しかし、給与とは別の所得があった場合にはBの申告書で申請しなければなりません。申告を怠ると「所得隠し」とみなされるので十分注意しましょう。
確定申告書Bには第一表・第二表が存在します。それぞれの記載内容は以下の通りです。
確定申告書Bは、税務署の窓口や国税庁のホームページにて入手できます。ホームページ上の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の表示に従って金額などを入力するだけで簡単に作成できるのでおすすめです。
「確定申告書第三表」は、分離課税の対象となる所得が発生している場合に提出しなければならない書類です。分離課税とは、給与所得などのほかの所得と合算せずに分離して税額を算出する税金のことを指します。
分離課税に該当する所得は以下の通りです。
ただし、分離課税対象となるすべての所得の合計額が900万円以下である場合は、分離課税ではなく「総合課税」で申請するほうが良いケースもあります。
相続した土地を売却した際の所得はこの「分離課税」の対象となるため、申告書Bと一緒に第三表も提出しなければなりません。第三表は税務署で受け取ることもできますが、国税庁のホームページからダウンロードするのが簡単です。
確定申告には、譲渡所得の内訳書である「確定申告書付表兼計算明細書」の提出も求められます。売却した不動産に関する情報を記入する書類で、課税対象となる所得を正しく算出するためのものです。
課税対象となる譲渡所得は、不動産の売却金額そのものではありません。不動産取得時の費用や譲渡にかかった諸費用など、いわゆる「経費」の部分を差し引いたものが課税対象となります。
つまり、内訳書によって収入金額・所得費用・譲渡費用を明記することにより、課税対象額を算出することができるのです。
また、利益ではなく損失が発生した際は、提出しなくてもよいケースもあります。しかし、提出することによって、減税措置や還付金を受けられる可能性や、損益通算で利益・損失を合算して申告する利益を少なくできるメリットがあるのです。
そのため、譲渡所得の内訳書は、利益の有無にかかわらずきちんと記入して提出するのが良いでしょう。
この確定申告付表兼計算明細書も、上記2つの書類と同様に税務署または国税庁のホームページで入手できます。慣れない手続きに手間取る可能性も考えられるので、余裕を持って入手・記入しておいてください。
譲渡所得の内訳を算出するためには、土地売却時の「売買契約書」が必要になります。土地売却時の売買契約書は収入証明のための必須書類です。
さらに、確定申告時には、先述した内訳書に自身で計算した金額を記入するだけでなく、その内容証明の書類として売買契約書のコピーの提出が求められます。
念のため、「どこに保管しているか」や「契約書にはしっかり収入印紙も添付されているか」について、事前に確認しておけると良いでしょう。
確定申告には、土地の売却にかかった費用である「譲渡費用」を証明するための書類も必要になります。譲渡にかかった費用は経費計上できるので、課税額を抑えられるメリットがあるためです。
譲渡費用として計上できる費用には以下のようなものがあります。
上記費用の領収書があれば、コピーを取って確定申告書類に添付して一緒に提出しましょう。ただし、修繕費・資産の管理費などの維持費は含まれないので注意してください。あくまでも譲渡の際にかかった費用のみが対象になります。
土地を売却した際の売買契約書については先述しましたが、確定申告には「土地取得時の売買契約書」も必要になります。売却した土地を購入した際の「取得費用」を証明するためです。
相続した土地の場合は、故人や被相続人が購入した当時の価格で算出しなければなりませんが、古い土地である場合は購入時の契約書が見つからない可能性もあるでしょう。
その場合には、売却価格の5%を取得費用として算出することが認められています。さらに、購入価格が証明できる書類があれば、売買契約書の代替書類として認められるケースもあるようです。
そのため、何か別の書類が残っている場合は、一度税務署に相談してみることをおすすめします。
不動産売却の所得税を算出するためには、取得の際にかかった費用についても明確にしなければなりません。
相続した土地の場合は、相続手続きの際に取得する書類や領収書が「取得費」として計上できるため、きちんと保管しておく必要があります。取得費用にできる経費は以下の通りです。
相続登記にかかる費用も取得費として申請できるため、領収書はなくさずに取っておきましょう。
先述したように、相続した土地の取得費用が不明瞭である場合は、売った金額の5%を取得費として計上可能です。
さらに、実際の取得費が「売った金額の5%相当額を下回る」場合についても、同様に設定できます。
詳しい内容については国税庁のホームページを参照してください。
一般的な確定申告に必要な書類である「マイナンバーカード」や「身元確認書類」なども忘れずに用意しておきましょう。
確定申告はマイナンバーカードがあればスムーズにおこなえます。しかし、所持していない場合は、税務署で直接本人確認をおこなった上で確定申告用のID・パスワードを発行してもらわなければなりません。
余裕を持っておこなうためにも、早めに来所して手続きを済ませておくか、事前にマイナンバーカードを作成・発行しておくことをおすすめします。
会社員やアルバイトなど、企業に所属する給与所得者に該当する場合は「源泉徴収票」も用意する必要があります。
源泉徴収票は年間所得や納付する所得税額を証明するための書類で、年末から1月にかけて勤務先から送付されるものです。2019年の確定申告からは、書類への添付・提出はしなくてもよいとされています。
ただし、確定申告書Bの第二表には、給与所得などを正しく記載しなければならないので、必要書類作成のために参照する書類として手元に用意しておく必要があるのです。
そのため、手元にない場合は職場に問い合わせて、きちんと入手しておきましょう。
不動産の売却時には、控除や損益通算などの特例が受けられる場合があります。それぞれの特例が適用できる可能性のある人を状況別に以下の表にしていますので、自分が該当する特例があるかどうかチェックしてみてください。
上記の特例や控除を適用するためには、先述した確定申告の必須書類だけでなく、特例ごとに異なる書類や資料を用意しなければなりません。以下はその一覧表です。
これらの特例は、ただ申請すれば適用されるわけではありません。それぞれ細かい適用条件が定められているため、自分の状況が条件に該当するかチェックした上で正しく申請する必要があります。
ここからは、それぞれの特例の概要・必要書類についてみていきましょう。
相続した土地をマイホームとして活用し、その後売却した場合には「居住用財産の3,000万円特別控除」の特例が受けられる可能性があります。
居住用財産の3,000万円特別控除とは、譲渡時の所得が3,000万円以下であれば所得税・住民税が控除されるという特例のことです。
この特例を適用するためには、原則その土地に住んでいたという事実証明が必要になります。確定申告の必須書類に加えて、以下の書類も用意しておきましょう。
上記書類は、売買契約日前日までの時点で、売り主の住民票記載住所と売却した土地の所在地が異なる場合に必要です。
なお、現在はマイナンバー制度の導入により、マイナンバーカードを所持している場合には提出しなくともよいとされています。
ただし、上記の原則以外にも細かい条件が定められており、それらにすべて該当しなければ適用されないので注意しましょう。たとえば、売り主と買い主が親族である場合は、上記の特例は適用できないものとされています。
そのため、相続した土地である場合は「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」や「相続財産に係る譲渡所得の所得費加算」などの特例を利用するのが良いでしょう。
詳しくは国税庁のホームページを確認するか、税理士・税務署に相談してみることをおすすめします。
また、相続した不動産の所有期間が10年以上である場合は、軽減税率の特例を受けることも可能です。先述した「居住用財産の3,000万円特別控除」と重複して活用することもできます。
課税される所得税の税率は、売却した不動産の所有期間によって異なります。所有期間ごとの税率は以下を参考にしてください。
※2013年から2037年までは復興特別所得税として、各年分の基準所得税額に2.1%が上乗せされます
この特例を受けるためには、10年以上その土地に住んでいたことを証明する必要があります。そのため、確定申告書類とあわせて以下の書類の提出が必要です。
なお、適用条件の詳細については、国税庁のホームページを確認してください。
マイホームの買換え時に活用できるのが「特定の居住用財産の買換え特例」です。
相続した土地をマイホームとして活用し、2021年12月31日までに譲渡した場合に適用でき、譲渡所得税を将来に繰越できるというメリットがあります。
ただし、この特例は譲渡所得税が非課税になるのではなく、あくまでも先延ばしにできるものです。間違って認識しないよう注意しましょう。
特定の居住用財産の買換え特例を適用するためには、細かい適用条件をクリアした上で、通常の確定申告書類に加えて以下の書類提出が必要になります。
細かい適用条件については国税庁のホームページを参照してください。
相続した不動産には居住せず、空き家となっていた場合には「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」の特例が受けられる場合があります。
適用条件に該当すれば、譲渡所得から3,000万円までは税金の控除が受けられるのがメリットです。
ただし、適用には1981年3月31日以前に建築された家屋であることや、売り主の所有期間・譲渡時期など細かい条件をクリアしている必要があるので注意しましょう。詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
また、被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除を受けるには、確定申告時に以下の資料もあわせて提出する必要があります。
上記の特例を利用するためには、確定申告に必要な1〜4面までの内訳書とは別に「5面」の記入が必要です。そのため、ほかの税務署発行書類とあわせて取得しておき、余裕を持って記入しておきましょう。
相続した不動産を一定期間内に売却すると、相続税として支払った金額の一部を譲渡所得の取得費として加算できる制度が「相続財産に係る譲渡所得の所得費加算の特例」です。
具体的には、相続した日の翌日から、相続税申告期限の翌日以降3年を経過する日までに譲渡していることが前提条件となります。つまり、相続税の申告期限から3年以内に売却している不動産が対象です。
他にも細かい適用条件が定められているので、詳しい内容は国税庁のホームページにて確認しておきましょう。
また、取得費に換算できる相続税額の計算方法は以下の通りです。
取得費加算額=相続税額×売却した不動産の課税額÷相続した財産合計額
相続財産に係る譲渡所得の所得費加算の特例を利用するためには、相続税の支払いを証明する書類の提出が求められます。そのため、必須書類のほかに以下の書類も用意しておきましょう。
相続税の計算明細書は、税務署から入手して自分で記入する必要がある書類です。確定申告時に慌てないよう早めに準備しておくと良いでしょう。
なお、この特例は「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」と併用できない「選択適用」なので、利用する際は注意が必要です。
マイホームの買換え時に譲渡所得がマイナスになってしまった、つまり譲渡損失が発生してしまった場合に活用できるのが「居住用財産を買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。
この特例が適用できれば、損失分を給与所得などから控除することが可能になります。さらに、一度ですべて控除しきれない場合は翌年から3年以内であれば繰越控除できるメリットがあるのです。
適用のために追加で必要となる書類には、以下のようなものがあります。
マイホームを買換えた証明になる書類・ローン残高などの証明書類の用意に加え、損失額の算出や損益通算をするための書類作成も必要になります。詳しくは国税庁のホームページをチェックしてください。
さらに、住宅ローンが残っているマイホームについては「特定の居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の特例が利用できる場合があります。
「ローンが残っているマイホームを売却したが、売却益がローンの残高よりも安くなってしまった」という場合は、譲渡損失が発生することになります。しかし、この特例を適用すれば、損失をその年の給与所得などから控除できるのです。
ただし、適用には不動産の所有期間が5年以上であることや売買契約のタイミングなど、細かい条件をクリアしなければなりません。詳しい内容については、国税庁のホームページをご覧ください。
上記の特例を適用するための追加書類は以下の通りです。
住宅ローンの残高証明書については、売買契約日の前日発行のもののみ有効になりますので、取得タイミングを誤らないよう気を付けてください。
「低未利用土地」は、活用されていない所有地のことで、具体的には空き地・空き家・空き店舗などのことです。さらに、利用頻度の低い別荘地など、常時利用されていない土地も該当します。
少子高齢化・人口減少により、空き地や空き家が放置されるケースが散見されるようになりました。そのため、自治体は町の治安・美観維持の観点から「低未利用土地の特別控除」を施行しています。
この特例の適用条件に該当すれば、譲渡所得のうち100万円までは控除可能です。ただし、適用するためには「譲渡金額が500万円以下」であることが前提となります。
また、上記の特例を利用する場合は、以下の書類が追加で必要です。
「低未利用土地等確認書」は、市区町村の「建築住宅課」や「市開発指導課」などで取得できます。申請から発行まで1〜2週間かかる場合もあるため、早めに取得しておきましょう。
最後に、相続した土地を売却した際の確定申告に必要な書類の入手先・入手方法について解説していきます。入手先別の一覧表は以下の通りです。
インターネットや各機関で取得する書類のほかに、自己保管している資料についても一度確認しておく必要があります。
特に、相続した土地である場合は、取得時の資料が手元にない可能性も考えられるため、早めに保管場所の把握や書類チェックをしておけると良いでしょう。
自分で所持している書類のうち、必要なものは以下の通りです。
「売買契約書」は、土地の売却時・取得時両方の資料が必要になります。売却時の契約書は、仲介を依頼した不動産会社に問い合わせれば写しをもらうことが可能です。
また、取得時の契約書が見つからない場合には、可能な範囲で土地の購入価格が明記されている資料を探し、税理士や税務署に相談してみましょう。
諸経費に関する「領収書」は、特に自己責任で保管しておかなければなりません。直近のものなら、発行先に問い合わせれば再発行してもらえる可能性もありますが、できないこともあるので注意してください。
「住宅ローンの残高証明書」は、毎年10月〜11月頃に自宅に送付される書類です。万が一紛失した場合は、借入先の銀行に再発行請求することで取得できます。
インターネット上でダウンロードできる書類には、以下のようなものがあります。
上記書類は国税庁のホームページや「確定申告書等作成コーナー」のページからダウンロードして取得できます。自宅からいつでも取得できるというメリットがあり、直接税務署で発行してもらうよりも簡単です。
ただし、確定申告書等作成コーナーを利用する際には、マイナンバーカードまたは専用のID・パスワードの所持が条件となります。
また「登記事項証明書」については、法務局のサイトで請求手続きが可能です。受け取りを窓口・郵送から選択できますが、取得には500円前後の費用がかかるので覚えておきましょう。
市区町村の自治体で書類申請をおこなうには、資料の提示や取得費用が必要になるので注意しましょう。役所で申請する書類の種類と、その取得に必要なものは以下を参考にしてください。
書類の取得手続きの方法は、各自治体によって異なります。事前に窓口やホームページでよく確認し、必要なものを準備しておきましょう。
「戸籍の附票」は、代理人が取得する場合は委任状が必要です。また「被相続人居住用等確認書」と「低未利用土地等確認書」については、申請書が各自治体ホームページからダウンロードできます。
ローンの借り入れがある場合は、借入先の金融機関の支店へ書類の発行を依頼してください。発行できる書類と取得時に用意するものは以下の通りです。
前述した通り、「特定の居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の特例を利用する際には「売買契約日の前日」を基準日に設定し、発行してもらう必要があります。
また、取得費用は金融機関によって異なるので注意しましょう。
相続した土地を売却した際の確定申告に必要な書類は、特例利用の有無によっても変動します。
取得に時間がかかる書類や、記入した上で提出しなければならないものも少なくありません。確定申告の時期はあらかじめ決まっているため、遅れることがないよう余裕を持って準備を始めてください。
また、特例の適用には細かい条件が定められているため、まずは自分が該当するかどうかを確認した上で書類を揃えるのがおすすめです。不明点があれば税務署や税理士・国税庁の相談窓口に問い合わせてみると良いでしょう。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。