不動産売却・査定

認知症の親の不動産は売却できる?例外や対処法をわかりやすく解説

親の認知症を理由に、不動産売却を検討する方もいるでしょう。「介護施設入所費用のため」「家を利用する人がいない」など、親の不動産売却の理由はさまざまあります。

しかし、認知症の親の不動産は、たとえ子であっても基本的に勝手に売却することはできません。この記事では、認知症の親の不動産売却ができるかどうか、売却する方法やその一つである成年後見制度について詳しく解説します。

認知症の親の不動産は売却できる?

結論から言えば、認知症の親の不動産はたとえ子どもであっても勝手に売却できません。不動産の売却ができるのは、その不動産の名義人本人のみです。

しかし、その名義人に十分な意思能力がない場合、仮に売買契約を結んでも無効になります。契約後に無効となるとトラブルのリスクも高くなるため、不動産会社も認知症の疑いのある所有者の売却には基本的に応じないでしょう。

そもそも認知症とは、脳の細胞が正常に機能しないことを要因として起きるさまざまな障害のことです。記憶障害から発症するケースが多いですが、他にも失語・失認・実行機能障害などさまざまな症状があります。年齢が上がるほど発症のリスクが高まり、2012年度の時点で65歳以上の7人に1人が認知症、2025年には5人に1人になると見込まれています。

認知症を発症すると、記憶や判断能力に障害が出るケースが多くあります。不動産売却で必要とされる意思能力とは、自分の行為でどのような法律的な結果が生じるのかを判断できる能力です。記憶力・判断能力に障害が出た状態では、自分の行為の結果を判断できません。そのため、認知症で意思能力がない・疑わしいと判断されると、不動産売却ができないのです。

「子どもであれば代理人として売却できるのでは」と考える方も多いでしょう。不動産売却では、遠方に住んでいる、入院していて身動きが取れないといったケースでは、委任状を利用して代理人が不動産を売却するケースもあります。ただし、代理人で売却できるのは、あくまで本人に十分な意思能力がある場合です。本人に判断能力のない認知症の場合、代理権を与える行為自体を正常におこなえないため、代理での売却もできません。

例外的に認知症の親の不動産を売却できるケース

認知症であっても、次のケースでは親の不動産を売却できます。

  • 実家の名義が認知症の親ではない場合
  • 認知症の親に判断能力があると判断された場合

実家の名義が認知症の親でない場合

家の名義が認知症の親でなければ、売却が可能です。

たとえば、父親と母親のうち、家の名義は父親で認知症を発症したのが母親というケースでは、父親が売却する分には問題ありません。父親が入院している場合でも、意思能力に問題がなければ、子が代理人として売却することも可能です。

また、家の名義がそもそも子になっている場合であれば、子の判断で売却できます。将来の認知症の心配などから、早い段階で子に名義変更しておくケースも少なくありません。

ただし、実家が父親・母親の共同名義の場合は、父親が健在でも母親が認知症であると売却が難しくなる恐れがあるので、注意しましょう。

認知症の親に判断能力があると判断された場合

認知症といっても、その症状や程度はさまざまです。軽度の認知症で、本人に判断能力が十分にあると判断された場合は売却できます。

不動産売買では、本人の意思確認は所有権移転前に司法書士がおこなうのが一般的です。この時に、問題なく返答できていれば意思能力があると判断されます。判断基準は司法書士により異なりますが、「氏名・住所・生年月日を答えられる」「家を売却するという意味を理解している」ことができれば、売却できる可能性が高くなります。

しかし、認知症の進行は思っているよりも早い場合もあります。売却を決めた際には正常でも、売却期間中に認知症が進行して意思能力が衰えるケースもあるので注意しましょう。

親の判断能力が十分であれば、先に家族信託契約を結んでおく方法もあります。家族信託とは、委任者の財産を委任者の意向に沿って委託者が適切に管理する契約です。親の認知症で財産が使えなくなるのを避けるためなどで、家族信託が用いられます。子を委託者として家の管理を委託すれば、子は信託契約に則って家の管理を自分でおこなうことが可能です。契約内容で家の処分の権限を与えられていれば、子の裁量で家を売却できます。

ただし、信託内容で家の処分の旨がないと、家族信託を結んでいても家の売却ができない点には注意が必要です。

親の家を売る方法について、詳しくはこちらの記事で解説しているのでご覧ください。

関連記事:親の家を売る方法|売却にかかる税金や買い手が見つからない場合の対処法を解説!

認知症の親の不動産を売却したいときの対処法

家の名義人である親が認知症で家を売却したい場合、次のような方法を検討できます。

  • 親が亡くなった後に売却する
  • 成年後見制度を活用して売却する

それぞれ詳しくみていきましょう。

親が亡くなった後に売却する

親が亡くなり、子が家を相続すれば、家の名義人は子になるので問題なく売却できます。ただし、相続して売却する場合は、売却の前に家の名義人を親から子に移す相続登記が必要です。

また、相続登記は2024年4月1日以降義務化され、登記しない場合罰則が科されます。この義務化では2024年4月1日以前の相続も対象となるため、すでに相続して名義変更がまだの不動産を所有している場合は、速やかに登記するようにしましょう。

故人名義の不動産の売却について、詳しくはこちらの記事で解説しているのでご覧ください。

関連記事:故人名義の土地は売却できる?売却のために知っておくべきこととは

成年後見制度を活用して売却する

「親の介護施設入所のための費用を賄いたい」などの理由の場合、親が亡くなってから家を売却するのは遅すぎます。親の認知症がすでに進行している状態で、親名義の不動産を売却するなら、成年後見制度を活用するのが良いでしょう。

成年後見制度であれば、家庭裁判所で選出された後見人であれば家の売却が可能です。ただし、成年後見制度には子が後見人になれないケースがあるなど注意点もあります。

成年後見制度について理解したうえで、活用を検討することが大切です。成年後見制度について、下記の章で詳しく解説していきます。

そもそも成年後見制度とは?

成年後見制度とは、判断能力が十分でない人に代わって、後見人が財産の管理や各種手続きなどの法律行為をおこなう制度です。

親が認知症になると、不動産の売却ができないだけでなく、口座のお金を使えない、入退院の手続きができないなどの不都合が生じます。また、認知症であることを悪用し、詐欺に遭ったり、親族の誰かが親の財産を勝手に使いこんでしまったりする可能性もあるでしょう。

成年後見制度は、このような事態から判断能力の衰えた本人の権利や財産を守るための制度です。後見人に指定された人は、本人に代わって財産の管理や法律行為がおこなえます。そのため、不動産の売却も可能です。

ただし、後見人がおこなえる行為は、あくまで「本人の利益になること」のみとなり、自分勝手に財産を管理できるわけではありません。不動産を売却する場合も、家庭裁判所の許可を得る必要がある点には注意しましょう。

成年後見制度には、大きく「任意後見制度」「法定後見制度」の2つがあります。任意後見制度は、将来の認知症に備えて判断能力が十分なうちに、本人が後見人と契約を結ぶ方法です。一方、法定後見制度は、すでに判断能力が低下した状態で、親族などが家庭裁判所に申請し後見人を選定してもらう方法のことをいいます。

親がすでに認知症の場合、法定後見制度を利用することになります。以下では、成年後見制度のメリット・デメリット、申請費用や手順を解説します。

成年後見制度のメリット

成年後見制度のメリットには、下記のような点が挙げられます。

  • 認知症の親の不動産を売却できる
  • 本人に利益のために財産の管理ができる

成年後見制度を活用することで、認知症で判断能力がない、疑わしいと判断された場合でも、本人に代わって不動産の売却ができます。不動産を売却して介護費用を捻出したいといった場合でも、売却して資金を確保することが可能です。

成年後見制度のデメリット

デメリットには、下記のようなことが挙げられます。

  • 家庭裁判所に申請が必要
  • 家族が後見人になれるわけではない
  • 管理をおこなう人の負担が大きい
  • 不動産売却だけに使うことができない

法定後見制度を利用する場合、家庭裁判所に申請して後見人を選定してもらう必要があります。申請のための費用や時間がかかる点には注意しましょう。

また、家庭紙裁判所が選定する後見人は、必ずしも親族から選ばれるわけではありません。申請時に親族の誰かを推薦することはできますが、家庭裁判所に認められないケースもあります。弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選任されるケースも多いでしょう。その場合、後見人に対しての報酬も発生します。

後見人に選ばれた人は、なんでも自由にできるわけではありません。売却や支出については、都度家庭裁判所の許可が必要なものもあります。

毎年、財産管理状況の報告も必要です。そのうえで、他の親族から使い込みなどの疑いをかけられるなど精神的なストレスになる恐れもあります。

一度、成年後見制度の開始が認められると、取り消しはできません。不動産売却だけしたら後は後見制度を取り消すということができないので注意しましょう。

成年後見制度の申請にかかる費用

法定後見制度の場合、申請にかかる費用は次の通りです。

  • 申立手数料:800円
  • 登記手数料:2,600円
  • 返信用切手代:裁判所によって異なる
  • その他:診断書や住民票などの書類取得費用

申請を司法書士や弁護士に依頼する場合、別途依頼料が必要です。

依頼する事務所によって費用は異なりますが、司法書士で10〜20万円、弁護士で15〜25万円程が目安となるでしょう。

また、成年後見制度で司法書士や弁護士など親族以外が後見人となる場合は、毎月報酬が発生します。

専門家が後見人になる場合の報酬は、毎月2〜6万円程が目安です。

成年後見制度の申請手順

法定後見人の大まかな申請手順は、下記の通りです。

  1. 必要書類の準備
  2. 家庭裁判所への申立
  3. 家庭裁判所による調査・検討
  4. 後見人の選任
  5. 後見制度の開始

必要書類を揃えて、家庭裁判所に申立します。申立後、家庭裁判所で本人などへのヒアリングや鑑定などの調査をおこない、後見人制度の必要性が審判されます。後見制度の開始を判断された場合、後見人の選任がおこなわれ後見制度が開始されます。

成年後見制度は申請から開始まで、2〜3カ月程時間がかかるものです。医師の鑑定が必要になる場合などでは、それ以上に時間がかかることもあるでしょう。

後見制度で後見人が選定されれば、後見人は不動産売却の手続きを進められます。ただし、居住用不動産の場合は家庭裁判所に売却の許可が必要となるので注意しましょう。

不動産売却の流れについて、詳しくはこちらの記事で解説しているのでご覧ください。

関連記事:不動産売却の基礎知識をプロが解説!知らなきゃ損する売却時の心構えと不動産会社の選び方

認知症の親の不動産を売却する際の注意点

認知症の親の不動産を売却する際の注意点として、下記のようなことが挙げられます。

売却が認められないケースがある

成年後見制度を利用すれば家の売却ができますが、売却には家庭裁判所の許可が必要です。売却する理由によっては売却の許可を得られない可能性があるので、注意しましょう。

売却に時間がかかる

認知症で判断能力が十分でない場合、成年後見制度を利用しないと家の売却ができません。しかし、成年後見制度の申請には2〜3カ月程時間がかかります。そこから家の売却を進めるとなると、1年以上時間がかかることも少なくありません。資金の必要なタイミングで売却ができない恐れもあるでしょう。

住宅ローンが残っていると売却が難しくなる

売却予定の家に住宅ローンが残っている場合、売却の前に住宅ローンの完済が必要です。住宅ローンの残っている家の場合は売却額で繰り上げ返済して売却するのが一般的でしょう。しかし、親が認知症の場合、金融機関によっては繰り上げ返済が認められない可能性があります。事前に金融機関に事情を説明して、売却できるかを確認するようにしましょう。

まとめ

認知症の親の家を売却する方法について解説しました。認知症など判断能力が十分でない場合、親の名義の家を売却するには、成年後見制度を利用することになります。成年後見制度を利用して家を売却する場合は、家庭裁判所の許可が必要など注意点もあるので、そのことを理解してサポートしてくれる不動産会社を見つけることが大切です。

また、認知症になってから売却を検討すると、売却がスムーズに進まなくなるものです。親が元気なうちや認知症の症状が軽度なうちに、家をどうするか話し合っておくことで、いざというときの対応も取りやすくなります。

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