インスペクションとは、建築士などの住宅の専門家が建物を調べ、劣化や不具合の有無を確認することです。
中古住宅を売りに出す前や、購入を決める前などに行われます。
実施するかどうかは売主・買主の自由で、義務ではありません。
とはいえ、引き渡し後のトラブルを防げる、買主が安心して購入でき売れやすくなるなどのメリットがあるので、売却の際にはやっておくのもおすすめです。
ここでは、インスペクションの意味や義務化の有無、メリット・デメリット、種類ごとの違い、費用相場について解説します。
インスペクションとは?

インスペクションとは、英語で「検査・調査」を意味する言葉です。
不動産では、建築士などの専門家が住宅を調べ、劣化や不具合がないかを確認することを指します。
調査は、ひび割れや雨漏りの跡、床や柱の傾きなどを、目視や計測器で確認する方法で行います。
壁をはがすなど建物を壊すことはないため、住んだままの状態で受けられるのも特徴です。
国土交通省の「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」では、調査にかかる時間は住宅の規模などにより、1〜3時間程度が目安です。
インスペクションで確認する主な箇所
- 基礎・柱・梁・壁・床・小屋組(屋根を支える骨組み)など、建物を支える骨組み
- 屋根・外壁・窓まわりなどの雨漏りにつながる部分
- キッチン・浴室・トイレなどの水まわり(調べるかどうかは調査の種類しだい)
インスペクションの目的は、売主と買主が建物の状態を正しく知ったうえで、安心して売買できるようにすることです。

中古住宅は、雨漏りや骨組みの傷みのように、見た目だけでは分からない劣化が隠れていることもあるよ!
売買の前に専門家が状態を確認しておけば、売却価格や修繕の要否を、建物の実際の状態にもとづいて判断できます。
中古マンション・住宅でインスペクションを行うのは義務?

中古マンションや中古住宅の売買で、売主や買主がインスペクションを行う義務はありません。
義務になっているのは、売買を仲介する不動産会社が、インスペクションについて説明・確認することです。
2018年4月に施行された改正宅地建物取引業法により、不動産会社は売買の3つの場面で、インスペクション(建物状況調査)に関する対応を義務づけられました。
| 売買の場面 | 不動産会社に義務づけられていること |
|---|---|
| 媒介契約を結ぶとき | 調査を行う業者のあっせん(業者との間に入り、見積もりの取り次ぎなどを行う)の有無を記載する。「無」とする場合は、その理由も記載する(2024年4月から) |
| 重要事項説明のとき | ・調査を行ったかどうかを買主へ説明する ・調査を行っていれば、その結果の概要を買主へ説明する |
| 売買契約を結ぶとき | 建物の状態について、売主・買主の双方が確認した事項を書面に記載する(確認は義務ではなく、確認した事項がなければ「無」と記載する) |
重要事項説明で説明の対象になるのは、実施してから1年以内の調査の結果です。
鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションは、2年以内に行われた調査が対象となります(2024年4月から)。
実施するかどうかは任意ですが、売却を依頼して媒介契約を結ぶとき、不動産会社から実施の希望を聞かれるのが一般的です。
売主は、聞かれたときに答えられるよう、あらかじめ考えておくと安心です。

買主から「購入前に調べたい」と頼まれることもあるよ!
買主が調査をするには、売主の同意が必要で、売主は、受け入れるかどうかを判断することになります。
ただし、要望を断ると「何か隠しているのでは」と思われ、話が進みにくくなることもあるようです。
判断に迷うときは、次のチェックリストで当てはまる項目を確かめたうえで、不動産会社の担当者に相談しましょう。

当てはまる項目が2つ以上なら、インスペクションを受けておくのがおすすめだよ!
インスペクションを受けるかどうかのチェックリスト
- 築年数が古く、これまで専門家による点検や大きな修繕をしていない
- 雨漏りの跡やひび割れ、床の傾きなど、気になる箇所がある
- 修繕やリフォームの記録が手元に残っていない
- 引き渡し後に、買主から修理や減額を求められないか心配だ
- 既存住宅売買瑕疵保険を付けて、保証付きの住宅として売り出したい
- 建物の状態を示して、早めに買い手を見つけたい
インスペクションのメリット

インスペクションを受けると、売買の前に建物の状態がはっきりするため、売主と買主の双方にメリットがあります。
売主にとっては、引き渡し後のトラブルを防げて売りやすくなること、買主にとっては、購入後に思わぬ出費が出るのを避けられることが主なメリットです。
- 見つかった不具合を事前に伝えられ、引き渡し後の修理や減額の請求を防げる
- 調査済みの住宅であることを販売時にアピールでき、早めの成約につながりやすい
- 条件を満たせば、引き渡し後の欠陥に備える「既存住宅売買瑕疵保険」に加入でき、保証付きの住宅として売り出せる
- 購入前に雨漏りや骨組みの劣化などの不具合を把握できる
- 修繕が必要な箇所が分かり、リフォームを含めた資金計画を立てられる
- 購入後に想定外の高額な修繕費がかかるリスクを減らせる
- 瑕疵保険に加入していれば、引き渡し後に見つかった骨組みや雨漏りに関わる部分の欠陥の補修費用が、保険の範囲内で支払われる
国土交通省の資料では、仲介を依頼してから1週間たたずに契約が決まった戸建ての割合は、売主がインスペクションを受けた場合、受けていない場合の約3倍でした。

売主にとって、調査済みの住宅は早く買い手が決まりやすいというのはメリットだね!
また、引き渡し後のトラブルを防げるというメリットもあります。
国が指定する住宅の相談窓口「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」の住宅相談統計年報2026では、不具合が起きた時期が分かっているものでは、6割ほどが購入から1年もたたないうちに起きていました。
インスペクションで見つかった不具合を買主に伝え、契約書にも記載しておけば、その不具合について、原則として売主は責任を問われません。

引き渡したあとに「聞いていない」と言われる心配が減るよ!
反対に、不具合を知りながら伝えなかったときは、「責任を負わない」という特約を契約に入れていても、責任を免れられません。
伝え漏れを防ぐためにも、売る前に建物の状態を把握しておきましょう。
インスペクションのデメリット

インスペクションにはメリットがある一方で、費用や手間がかかるなどのデメリットもあります。
売主にとっては、費用の負担や、不具合が見つかったときに値下げを求められること、買主にとっては、すべての不具合が分かるわけではないことが主なデメリットです。
- 調査の費用がかかり、依頼した売主の負担になる
- 不具合が見つかると買主に伝えることになり、補修や値下げを求められることがある
- 日程の調整や、調査当日に室内へ入れるよう準備する手間がかかる
- 購入前に調べるには売主の承諾が必要で、断られると実施できない
- 調査の費用がかかり、購入を見送っても費用は戻らない
- 目視が中心の調査のため、壁の中など見えない部分の不具合までは分からない
- 不具合がないことを保証する調査ではなく、引き渡し後に不具合が見つかることもある
売主が特に気をつけたいのは、不具合が見つかったときの対応です。
見つかった不具合を、売主が必ず修理しなければならないわけではありません。

修理せずに現状のまま引き渡し、その分を価格に反映させる方法もあるよ!
どちらにするかを買主と話し合い、契約書に記載しておきましょう。
買主が押さえておきたいのは、インスペクションは調査した時点の状態を確かめるものなので、問題が見つからなくても不具合がないと保証されたわけではないという点です。
点検口がない、家具を動かせないなどの理由で調べられなかった箇所は、報告書に「調査できなかった」と記載されます。どこまで調べられたかを、報告書で確かめておきましょう。

調べられなかった部分の不具合には、既存住宅売買瑕疵保険で備える方法もあるよ!
不動産のインスペクションの種類

不動産のインスペクションには、法律で調査の内容が決められた「建物状況調査」と、民間の住宅診断である「ホームインスペクション」の2種類があります。
| 比較項目 | 建物状況調査 | ホームインスペクション |
|---|---|---|
| 根拠 | 宅地建物取引業法 | 法律の定めなし(民間のサービス) |
| 調査する人 | 既存住宅状況調査技術者(講習を修了した建築士) | 建築士・ホームインスペクターなど(必須の資格はない) |
| 調査範囲 | ・建物の骨組み ・雨水の浸入を防ぐ部分 |
依頼先・プランによって選べる |
| 重要事項説明 | 結果の概要が説明される | 説明の対象外 |
| 依頼先の探し方 | 不動産会社のあっせん、既存住宅状況調査技術者検索サイト | 民間の住宅診断会社に直接申し込む |
2つの大きな違いは、調べる範囲です。
建物状況調査は、建物の骨組みと雨漏りに関わる部分に限られ、ホームインスペクションは、設備や内装まで幅広く調べられます。
建物状況調査|法律にもとづく調査
建物状況調査は、宅地建物取引業法にもとづいて行うインスペクションです。
調べるのは、国の登録を受けた機関の講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)で、国が定めた方法で調査します。
国土交通省の既存住宅状況調査(令和5年9月版)では、既存住宅の売買で何らかのインスペクションを実施した人のうち36.0%が建物状況調査(既存住宅状況調査)を選んでいました
建物状況調査で調べる部分(木造住宅の場合)
- 構造耐力上主要な部分(建物を支える骨組み):基礎・土台・床・柱・梁・外壁・内壁・天井・小屋組など
- 雨水の浸入を防止する部分(雨漏りを防ぐ部分):屋根・外壁(窓などの開口部を含む)・軒裏・バルコニー・内壁・天井・小屋組など
ホームインスペクションとの違いは、調べる範囲が法律で決まっている点です。
調査結果の概要は、重要事項説明で買主にも説明されます。
一方で、雨どいや給排水管などの配管、給湯器や換気扇などの設備は、調査の対象として定められていません。
壁紙の汚れなど、内装の傷みも調査の対象外です。

設備まで確認したいなら、ホームインスペクションを選ぶか、調査項目を追加しよう!
調査を依頼したいときは、仲介を依頼している不動産会社に紹介してもらうか、既存住宅状況調査技術者検索サイトで探せます。
建物状況調査が向いている人
- 調査結果の概要を、重要事項説明で買主に伝えたい売主
- 国が定めた方法で、建物の骨組みや雨漏りの状態を確かめたい人
- 既存住宅売買瑕疵保険への加入も考えている人
- 不動産会社のあっせんを利用して、依頼先を探したい人
ホームインスペクション(住宅診断)|調べる範囲を選べる
ホームインスペクションは、民間の会社が行う住宅診断の総称です。
法律で決まった調査範囲はないため、依頼先やプランによって調べる内容が変わります。
購入を考える買主が、売主の承諾を得て依頼するケースもあります。
多くのプランでは、建物状況調査と同じ部分に加えて、設備や内装の状態まで調べます。
国のガイドラインでは、骨組み・雨漏り・給排水管などの設備配管が、基本の検査範囲とされています。
コンロや換気扇などの設備機器の動作確認は、依頼者の希望に応じて追加する扱いです。
ホームインスペクションで調べられる部分の一例
- キッチン・浴室・トイレなどの水まわりの水漏れ
- 換気設備や火災報知器の設置状況
- ドアやふすまなど、開け閉めする部分の動き
- 床下・屋根裏の内部(中に入って調べるオプション)
- 雨漏りや断熱材が抜けている箇所(赤外線カメラで温度の違いを調べるオプション)
建物状況調査との違いは、調べる範囲を選べる点です。
設備や内装まで含めて、住宅全体の状態を知りたいときに向いています。
ただし、重要事項説明で説明されるのは、建物状況調査の結果だけです。
重要事項説明で買主に伝えたいなら、建物状況調査を含むプランかどうかを、依頼前に確認しましょう。
ホームインスペクションが向いている人
- 給湯器やキッチンなどの設備まで、まとめて状態を確かめたい人
- 床下や屋根裏まで、詳しく調べたい人
- 購入前に、リフォーム費用も含めた資金計画を立てたい買主
- 気になる箇所や予算に合わせて、調べる範囲を選びたい人

ホームインスペクションには必須の資格がないよ。建築士などの資格を持つ人が調べてくれるか、事前に確認しておくと安心だね!
インスペクションの費用相場

インスペクションの費用相場は4万〜8万円程度で、物件の種類や広さ、調べる範囲によって変わります。
費用は調査を依頼した人が負担することが一般的なので、売却前に売主が依頼する場合は売主の負担です。
建物状況調査とホームインスペクションのどちらを選んでも、基本の調査の費用相場は大きく変わりません。

ホームインスペクションの基本プランには、建物状況調査と同じ調査項目が入っていることが多いんだ!
建物状況調査だけを依頼しても安くなるとは限らず、同じくらいの料金がかかることもあります。
費用に差が出るのは、ホームインスペクションで床下・屋根裏の調査などのオプションを付けるかどうかです。
| 物件の種類 | 基本調査の費用相場 | 費用が上がる主な条件 |
|---|---|---|
| 中古マンション | 4万〜6万円程度 | ・専有面積が広い ・バルコニーが広い ・管理状況の調査を追加する |
| 中古戸建て | 5万〜8万円程度 | ・延床面積が広い ・築年数が古い ・床下や屋根裏の調査を追加する |
料金は依頼先によって異なるため、複数の会社で同じ調査範囲の見積もりを取って比べることが大切です。
中古マンションの費用相場|4万〜6万円程度
中古マンションのインスペクションの費用相場は、4万〜6万円程度です。
マンションは調査の中心が住戸内で、建物全体の外壁や屋上までは調べないことが多いため、戸建てより費用が安い傾向があります。
基本料金に加えて、物件の条件や希望する調査によって、次のような追加料金がかかることがあります。加算の基準や金額は依頼先によって異なるため、見積もりで内訳を確かめましょう。
| 費用の項目 | 金額の目安 | かかる場合 |
|---|---|---|
| 面積による加算 | 1㎡あたり500円程度 | 専有面積が100㎡を超える |
| バルコニー面積による加算 | 5,000〜1万円程度 | バルコニーの面積が30㎡以上 |
| 管理状況の調査 | 3万円程度〜 | 修繕の計画や共用部分の管理状態も確認したい |
| 写真付きの詳細な報告書 | 1万円程度 | 調査結果を写真付きで残したい |
マンションは、建物全体の状態が、管理組合(住民で作る建物の管理団体)による修繕の進み具合に左右されます。
購入前に調べるなら、管理状況の調査も検討してみましょう。
中古戸建ての費用相場|5万円〜15万円程度
中古戸建てのインスペクションの費用相場は、5万〜8万円程度です。
戸建ては基礎や屋根、外壁まで建物全体を調べるため、マンションより費用が高くなります。
床下や屋根裏まで詳しく調べるオプションを付けると、総額は10万〜15万円程度になります。
主な追加費用の項目は、次のとおりです。金額や加算の基準は依頼先によって異なります。
| 費用の項目 | 料金の決まり方 | かかる場合 |
|---|---|---|
| 床下の進入調査 | オプション料金 | 床下に入って土台や配管を確認したい |
| 屋根裏の進入調査 | オプション料金 | 屋根裏に入って雨漏りや骨組みを確認したい |
| サーモグラフィー調査 | オプション料金 | 雨漏りや断熱材の欠けを調べたい |
| 築年数による加算 | 築年数に応じて加算 | 築年数が古い |
| 面積による加算 | 広さに応じて加算 | 延床面積が広い |
床下や屋根裏の調査は、基本料金に含まれているとは限りません。
そのため、見積もりを比べるときは、基本料金にどの調査が含まれているかを確認しておくと安心です。
まとめ
インスペクションとは、建築士などの専門家が住宅の劣化や不具合を調べる調査で、中古住宅の売買の前に行われます。
売主や買主に実施する義務はありません。
一方で、不動産会社には、媒介契約・重要事項説明・売買契約の各場面で、説明や確認をすることが義務づけられています。
売主にとっては、引き渡し後のトラブルを防げて、売りやすくなることがメリットです。
買主は、購入後の思わぬ出費を避けられます。
ただし、調査の費用や手間がかかり、すべての不具合が見つかるわけではありません。
種類は、法律にもとづく建物状況調査と、民間のホームインスペクションの2つです。
費用は、どちらも4万〜8万円程度が目安です。
売却を考えているなら、まず仲介を依頼する不動産会社に、インスペクションを受けるかどうか相談してみましょう。